医学的見地から見る寒天の魅力
今話題の寒天健康パワーが研究によって発表されています。
長年、高血圧や肥満治療の一環として寒天を用いてきた杤久保修先生にお聞きしました。
横浜市立大学医学部教授
杤久保修先生
自然に食事の量が減り、無理なくやせられる!?
医師が推奨する寒天ゼリーダイエット!!
ここ15年ほど、日本人の体重は増え続けています。男性は年齢を問わず増加し、女性は20代のみ減少傾向にあるものの、それより上の世代では増加傾向が強まっています。中年以降に体重がふえやすいのは、誰しも実感するところですが、ほとんどの場合、この増加分は脂肪です。
脂肪は、皮膚の下の皮下脂肪と、腹部の内臓の周囲にある内臓脂肪(腹部脂肪)に分けられます。私達は、患者さんたちが肥満、特に内臓脂肪が多い「内臓脂肪型肥満」を予防・解消できるように、さまざまな指導を行っています。内臓脂肪が多く付いていると、高血圧、糖尿病、高脂血症などになりやすいことがわかっています。最近は、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症が重なると、死亡率が高くなることがわかり、これらを「死の四重奏」と呼んでいます。つまり、内臓脂肪が増えるほど、死の四重奏がそろう危険性が増すのです。それを防ぐためにも、内臓脂肪型肥満の予防・解消が大切です。ちなみに、ヘソの高さで測った腹囲が、男性で85cm、女性で90cm以上あると、内臓脂肪型肥満が疑われます。
こうした内臓脂肪型肥満の対策として、私たちが提唱してきたのが「計るだけダイエット」です。これは、50g単位の体重計で、朝食前(排尿・排便後)と、夕食後の2回、体重を計って記録する方法です。この差がプラス600g以内なら、翌日には必ず体重が減ります。こうして、一日に50gくらいずつ減るようにしていきます。朝食前に比べて、夕食後の体重が1㎏以上増えると、翌日の体重は減りません。これは食べすぎか運動不足なので、それらを調整します。特に、私たちが「勝負どころ」にしているのが夕食です。夕食で食べすぎると、あとはあまり活動しないで寝るだけですし、夜は代謝(体内での物質の変化や入れ替わり)も落ちるので、エネルギーが内臓脂肪となってたくわえられやすいのです。
そこで、夕食に食べすぎないよう指導しますが、なかには、どうしても食べすぎてしまう人がいます。そんなときにおすすめしているのが、「寒天」の活用です。夕食前に寒天を食べると、これまでダイエットできなかった人でも、楽に摂取エネルギーを減らせます。そして、順調にやせられる場合が多いのです。なぜなら、寒天には次の3つの特長があるからです。
寒天の3つの特徴
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食物繊維が豊富で腹持ちがいい
寒天は、「繊維のかたまり」といえるほど食物繊維が豊富です。寒天繊維は約100倍の水を吸収し、ボリュームが大きくなり腹持ちをよくするので、ダイエットの時はたっぷりとるほど効果的です。また、便通を促し、腸内環境をよくする働きもあります。
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ほぼノンカロリーで無制限に食べられる
食物繊維を穀類や豆類などで摂収しようとすると、エネルギーも一緒にとってしまいます。しかし、寒天は食品自体がほぼノンカロリーなので、安心して食べられます。
また、WHO(世界保健機関)の食品規格部会では、寒天を「ノーリミテッド」、つまり制限なしに食べられる食品に分類しています。このことから寒天は、いくら食べても安心な食品であるといえます。 -
ほとんど無味無臭なので、いろいろな食べ方が楽しめる
寒天は、それ自体がほとんど味も香りもないので、食べ方のバリエーションが豊富で、飽きずにおいしく食べられます。このことも、ダイエットに非常に好都合です。
寒天は、糖の吸収スピードを遅くする。
夕食前に寒天を食べる驚きの研究結果!
寒天を常食すると、肥満や糖尿病などにどんな効果があるのか、以下の方法で調べました。肥満を伴う軽度の糖尿病の患者さん76名を二群に分け、どちらにも同様に栄養士による食事指導を行ったうえで、一方の群だけは、夕食前に寒天を食べてもらいました。
食べてもらったのは、角切りにした寒天ゼリー(寒天を水で煮溶かし、固めたもの)に、甘さを控えめにしたきな粉や黒みつなどで味つけしたものや、トコロテンなどです(トコロテンは、厳密にいうと寒天の原料になるものですが、ここでは寒天製品として扱います)。1回の量は175グラムで、ごはん茶碗一杯より少し多いくらいです。食物繊維量は、メニューによって違いますが、2.5~4.5グラムでした。
こうして3カ月間の追跡調査を行い、前後の体重や体脂肪率、血糖値などの検査値を比較しました。すると、体重、体脂肪、肥満の指標であるBMIなどは、寒天を摂収した群のほうが明らかに減少していました(BMIは体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割った数値で、22が適正、25以上が肥満)。空腹時血糖値や、過去2カ月程度の血糖値の指標となるヘモグロビン、血中コレステロール値なども、やはり寒天摂取群で明らかな低下がみられたのです。体重や体脂肪、BMIが減少したのは、ほぼノンカロリーの寒天をとることで、夕食の量が減って無理なくカロリーダウンできたからでしょう。
一方、血糖値やコレステロール値の改善は、肥満の改善によるほか、寒天の食物繊維が直接的にも働きかけた結果と考えられます。コレステロールは肝臓でこわされ、消化液の一種である胆汁酸の材料となって小腸に流れこみます。通常、これが再吸収されてまたコレステロールの材料になります。しかし、腸内に食物繊維が多いと、胆汁酸が繊維に吸着され、排泄が促されます。すると、体内にコレステロールの材料が減り、コレステロール値が下がるのです。
また、腸内に食物繊維が多いと、糖質が吸収されるスピードも遅くなります。その結果、血糖値やヘモグロビンも下がるわけです。
寒天の常食は、肥満対策ばかりか、血糖値やコレステロール値などの改善にも効果的なことがわかりました。この研究結果をまとめた論文は、イギリスの医学専門誌に掲載され、外国の研究者の関心も呼びました。寒天は、現代の食生活の問題点をカバーする低エネルギー・高繊維食品です。日本人に不足がちなカルシウムも豊富で、現代人にとって理想的な食品といえます。ぜひ寒天を見直していただきたいと思います。
寒天は夕食の直前に食べるのがポイント!
寒天のとり方に、もちろん特別な決まりはありません。しかし、ダイエットや生活習慣病対策として役立てるさいには、いくつか知っておくとよいポイントがあります。ここではそれを紹介しましょう。
【寒天基本のとり方】
基本的なとり方としておすすめなのは、夕食前に170~180gの寒天ゼリー(寒天を水で煮溶かして固めたもの)を食べることです。ここでポイントとなるのが、「夕食の直前」にとること。夕食を食べる前に、寒天ゼリーを食べることで満腹感が得られ、夕食の量を自然に減らすことができます。
寒天ゼリーを食べたあとは、夕食を普通にとってかまいませんが、ダイエット効果を高めたい場合は、寒天ゼリーをごはんの代わりにし、副食は野菜や海藻、魚などが中心の献立にすることをおすすめします。ちなみに、食前に寒天ゼリーを食べるのは夕食時だけです。無理をして3食とも行うと、長続きしませんし、リバウンドのおそれもあるのでおすすめできません。こうした寒天ゼリー食と共に、なるべくよく歩くこと(1日1万歩が目標)を心がければ、3カ月後には、かなりの確率でダイエットに成功することができるでしょう。
寒天ゼリーは、寒天(角寒天、粉角天、糸寒天のいずれでもよい)を水で煮溶かし、容器に入れて固めるだけで簡単に作れます。これに、好みで黒みつ、ハチミツ、酢醤油などを少量かけて食べます。ワカメなどの海藻や生野菜と盛り合わせ、サラダとして食べるのもいいでしょう。飽きないように、味つけや食べ方をいろいろ工夫してください。また最近は、そのまま食べられるさまざまな寒天食品(角切りや麺状に固めた寒天食品、トコロテンなど)も出ています。これらを利用するのもよいでしょう。
寒天の繊維と保水量が
血糖やコレステロールを緩徐に低下させる
食事をすると、食べ物は胃で分解されて糖やコレステロールの原料に変わり、腸で吸収されます。寒天は大量の水を保持したまま腸へとやってくるので、腸の中でも大幅な体積を占めることになります。水を含んでかさばった食物繊維は、糖の吸収を遅くし寒天の保水力が糖の吸収速度を遅くしてくれます。コレステロールの材料となる胆汁酸を吸着し腸での吸収を減弱してくれるのです。その結果、血糖値の上昇が緩やかになり、血中コレステロールを少し低下してくれます。この寒天特有の強力な保水力が、生活習慣病を引き起こすさまざまなリスクを取り除いていたのです。
またうれしいことに、必ずしも固めてから食べなくても、いったん煮沸して溶かした寒天であれば、ある程度は効果が得られます。固めてもよし、温めてもよしというわけです。
寒天は、「繊維のかたまり」といえるほど食物繊維が豊富です。寒天繊維は約100倍の水を吸収し、ボリュームが大きくなり腹持ちをよくするので、ダイエットのときはたっぶりとるほど効果的です。また、便通を促し、腸内環境をよくする働きもあります。
抗がん作用が期待される
固まらない寒天
寒天の食物繊維とがんにも、意外な関係があることが最近の研究でわかってきました。
それは、「固まらない寒天」。寒天は酸の強いレモン汁などと一緒に煮ると、冷めても固まらなくなってしまいます。
これは、本来固める性質のある食物繊維の網目構造が、酸によって分解され、短く切れてしまうことで起こります。加熱によって、寒天が溶けて網目構造がほどけている状態でのみ、酸の影響を受けて固まらなくなるのです。この「固まらない寒天」に含まれる成分に抗がん作用が期待されています。
この成分は、これまでの食物繊維の働きを失って、腸から体内へと吸収されるようになります。これをがん細胞に加えたところ、細胞の核がバラバラに壊れて、がんが抑制されることがわかってきたのです。ただ現時点では、まだ動物実験や人間のがん細胞を使った試験管レベルでの実験という段階で、研究はまだ始まったばかり。人の臨床試験によるデータはありません。しかしながら、将来的にはがん抑制効果が認められる可能性があるといえるでしょう。